椎間板は、背骨(脊柱)を構成する椎骨と椎骨の間に存在し、背骨に加わる衝撃を緩和するクッションの役割を担っています。椎間板は中心部にゼリー状の髄核と呼ばれる柔らかい組織があり、その周囲の線維輪と呼ばれる丈夫な外層とで構成されています。髄核は子供ではゼリー状ですが、年齢とともにみずみずしさがなくなっていきます。この椎間板に強い圧力が加わったり、線維輪の弾力性が低下すると、亀裂が生じ、椎間板の内容物が押し出され突出します。これを椎間板ヘルニアと呼びます(図)。
突出した椎間板が神経を圧迫すると下肢に痛みが生じることがあります。症状は、急性の激しい腰痛や下肢痛です。症状が進行すると下肢の力が入りにくくなり、つまづきやすいなどの運動障害が起こります。また、稀ではありますが、馬尾と呼ばれる腰椎部の神経が、ヘルニアにより強く圧迫されると、尿や排便の障害を生じることがあります。 痛みやしびれ感などの症状は、腰の前屈動作(前かがみ)や椅子に座った時に強くなることがあります。診察では、あお向けに寝て膝を伸ばした状態で片方ずつ足を持ち上げていく下肢伸展挙上テストで下肢に走る痛みが誘発されます。レントゲン検査では椎間板や神経の描出が困難なためMRIによる検査が必要です。
椎間板ヘルニアに対しては脊椎脊髄病専門医の診断と治療が必要です。適切な治療にも関わらず下肢の痛みが治らない場合、下肢の麻痺が進行する場合や前述の排尿、排便障害が出てくるような場合には、手術が必要になります。手術治療としては、「内視鏡下椎間板ヘルニア摘出(切除)術(MED)」、などがあります。
背骨には神経の通り道である脊柱管と呼ばれる孔があります。長い年月の間、体を支え続けていると背骨が変形して脊柱管が狭くなってきます。腰椎部で脊柱管が狭くなった状態を腰部脊柱管狭窄症と呼びます。腰部脊柱管狭窄症は、50歳代以降から徐々に増えてきます。脊柱管が狭くなると、そのなかを走っている神経(馬尾や神経根)が圧迫されて、坐骨神経痛と呼ばれる下肢の神経痛やしびれ感、麻痺(脱力)が発生します。時には、両下肢のしびれ 感の他に、股間のほてり、排尿後にまだ尿が完全に出し切れない感じ(残尿感)、便秘などの膀胱・直腸症状が発生します。これらの症状は、主に歩行時により惹起されます。そのため腰部脊柱管狭窄症では、長距離を続けて歩くことができなくなり、歩行と休息を繰りかえす間欠跛行(かんけつはこう)という状態になります。歩くと下肢の痛みやしびれ感が強くなってくる、あるいは下肢の症状に排尿の異常を伴うような症状があれば腰部脊柱管狭窄症が疑われますので専門医に診て貰った方がよいでしょう。
主な治療法には、薬物療法、ブロック療法、そして手術療法があります。自分で出来る日常生活での工夫としては、立位の作業の時には10cm程度の踏み台に片足をのせる、歩行の時に少し前屈みになるように杖をついたり、押し車を利用するといったことが挙げられます。
腰椎すべり症は、腰の骨(腰椎)が前後にずれてしまう病気で、中年以降の女性に好発し、第4番目の腰椎によく認められます。原因は明らかではありませんが、多くは加齢とともに腰椎の椎間板や関節・靭帯がゆるみ、腰椎が不安定性(ぐらつき)をともなってずれるようになり、脊柱管(神経の通り道)が狭窄することで神経が圧迫されて、腰痛や下肢の痛み・しびれ感が生じます。進行とともに症状は変化します。初めは腰痛が主体ですが、進行すると神経の圧迫による間欠跛行(かんけつはこう/長い距離を歩くと痛み・しびれ感が強くなり、しゃがみこむと症状が軽減する)を認めたり、さらに進行すると安静時にも下肢の痛みやしびれ感が出現するようになります。治療は保存療法が原則です。腰痛が強い場合は、コルセットを装用し日常生活で腰に負担のかかる動作を避けることが重要です。鎮痛剤などを内服し、痛みが軽減してきたら腰部のストレッチングや筋力訓練をおこないます。下肢の疼痛やしびれ感が強い場合、これらの保存療法で改善の得られない症例では除圧術や脊椎固定術などの手術が必要となることがあります。
頚椎も腰椎同様に椎骨と椎骨の間に椎間板が存在し、脊柱に可動性を持たせながらクッションとしての役割も担っており、加齢等により周囲の線維輪に亀裂が入り内容物が脱出する椎間板ヘルニアになることがあります
症状はヘルニアの突出方向によって異なりますが、脊髄自体や脊髄から分岐した神経根(神経の枝)を圧迫することにより、片側の頚部から肩および肩甲骨・腕などの痛みやしびれを生じ、筋力低下を呈することもあります。一方、中央に大きく突出した場合には脊髄自体を圧迫することにより、手指の細かな運動がしづらい、歩行障害や膀胱直腸障害(頻尿、尿閉、尿失禁など)などの症状が出現します。保存療法で強い痛みやしびれが改善されない場合や、脊髄や神経根の圧迫による神経障害が出現した場合には頚椎椎弓形成術などの手術を要する場合もあります。
※内視鏡下の脊椎手術を希望される方は、坂本医師、宮川医師の診療日に受診をお願い致します。
※経皮的椎体形成術(BKP)を希望される方は、宮川医師の診療日に受診をお願い致します。
椎間板ヘルニアによる神経の圧迫症状が強い場合に行われます。従来から、背中側から入って椎弓の一部を削り、椎間板を取り除く方法が最もよく行われています。手術後2~3日目から歩行開始し、入院期間は2~3週間程度です。しかし、小さな傷で手術を行う低侵襲手術である内視鏡下椎間板ヘルニア摘出(切除)術(MED)(図)では手術の傷は、2cm弱と小さく、手術後の痛みが少ないのが特長です。手術翌日から歩行でき、早期に退院が可能です。
内視鏡下椎間板ヘルニア摘出(切除)術(MED)のメリット
1.出血が少ない。
2.術後感染が少ない。
3.手術後の痛みが少ない。
4.スポーツ・仕事への復帰が早い(高齢者の社会復帰にも有用)。
5.入院期間が短く、そのため入院治療費が安くなる。
などのメリットがあります。
MEDを応用した高齢者の腰部脊柱管狭窄症の手術が盛んになってきています。
1.内視鏡下片側進入両側椎弓切除(形成)術(MELもしくはMELP)
正中の骨(棘突起)をよけ、左右どちらかから斜めに内視鏡を挿入し、脊柱 管周囲全体の黄色靭帯、骨を削り、狭窄を改善します。
2.内視鏡下棘突起間進入椎弓間除圧術(ME-MILD)
正中の骨(棘突起)の一部および靭帯を切開し、正中から 内視鏡を挿入、脊柱管周囲全体の黄色靭帯、骨を削り、狭窄を改善します。
※当院では患者さんの状態により術式の使い分けをしています。
◆方法、術後経過についてはほぼMEDと同じです。
◆対象年齢の制限は設けず、80代以上の方でも内科・麻酔科医師と相談の上、手術しています。
手術は、最初に神経周囲の圧迫を取ってから、椎間板を取り去り、そこに腰椎の支柱のようなもの(ケージ)を挿 入します。ケージの中とその周りに自分の骨を細かくして詰め込みます(骨移植)。次に、金属のスクリューをねじ 込んで、それを金属棒(ロッド)でつなぎます。
頚椎椎弓形成術とは、頸髄症・頚椎椎間板ヘルニアなどに罹患し脊髄症状・神経根症状を発症した場合に行う 手術方法の一つです。頚椎を後方から展開し、狭小化した脊柱管を拡大するために椎弓を様々な方法で形成す る手術であります。当院では、椎弓を正中部分で縦割し左右に拡げ、その空隙に人工骨を設置する棘突起縦割 式脊柱管拡大術を主に行っています。
原発性骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折で、十分な保存治療によっても疼痛が緩和されないものや多発性骨髄腫、転移性骨腫瘍による脊椎圧迫骨折に対して行われます。 全身麻酔にて背中に5mmの切開を2か所入れ、椎体内でバルーンを膨らませてからセメントを注入する方法で脊椎を固定します。 手術時間は30分程度で出血量も少量であり、切開範囲が小さいため体への負担が少ないのが特徴です。手術直後から離床可能となります。
① 背中から針を刺入し、骨折した椎体への細い経路を作ります。そこへ小さな風船のついた器具を入れます。 | ② 椎体の中に入れた風船を徐々に膨らませ、つぶれた骨を持ち上げて、できるだけ骨折前の形に戻します。 | ③ 風船を抜くと、椎体内に空間ができます。その空間を満たすように、骨セメントを充填します。 | ④ 手術は1時間程度で終わり、骨セメントは手術中に固まります。 |
頚椎 | 17件 |
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腰椎 | 153件 |
鏡視下 | 72件 |
バルーン椎体形成術 | 7件 |
計 | 249件 |